『1998年の宇多田ヒカル』宇野維正
宇多田ヒカルは好きだ。
でもこの手の新書を読んでアーティストの周辺情報を集めることはしたことがなかった。
ネット上のどこかで、誰かがこの本を絶賛していたから興味をもった。
要点のない、まとまりを欠いた、雑学だけでページが進んでいく本。
冒頭の、「オヤジの昔話に終始しないようにする‼」という趣旨の弁明は見上げたものだと思うが、しかし、著者が自分でも気づいてない「古さ」は、最後に露呈する。
300万枚とか400万枚とか800万枚とかいうCDの売り上げのバカみたいな数字の総体は、その全員が音楽ファンなわけがなく、「なんとなくCDを買っていた」人たちが支えていた。若い世代の読者には想像もつかないかもしれないが、CDを買う行為そのものが「なんとなくクールなこと」「なんとなくオシャレなこと」だった時代があったのだ。そして、「なんとなく買っていた」人たちは、ちょっと考えればすぐにわかることだが、特に理由もなく「なんとなく買わなくなる」。
最後の指摘はするどい。
それでいて、著者の世代のことしか指していない点で、一面的だ。いまは、音楽という嗜好品を「なんとなく買ったり買わなかったりする」時代でもない気がする。
筆者が先日話した20歳前後の子は、聞いたこともない、コアな和製ビジュアルロックバンドのCDを、コアな販売場所を探し当てては愛好していると言っていた。
自身でしているかは分からないが、ビジュアル系というからには、コスプレイベントややオフイベントなんかとも絡むことがあるのではないか。
そういう情報は、筆者がクリックするようなサイトには出てこない……。
宇野氏はどうだろうか。
ただ筆者が話した20歳前後の子のように、知っている人は知っているし、CDどころかグッズも買うかもしれない。
宇野氏が言う、「CDが売れなくなった」のは本当かも知れないが、枕詞を勝手につけて、「大手スポンサーやレーベルのCDが売れなくなった」というところが実際ではないのだろうか。
ところで筆者は、宇多田ヒカルの新曲「花束を君に」は、買ったばかりのスマホでポイント購入した。それはいいのだが。
宇多田ファンとして面白かったのは、彼女の音楽に「密室感」「親密さ」があるという指摘。
そういえば、そうかな。